キミは聞こえる
「ゲーム専用の棚があるんだよ。攻略本からなにか他にもいろいろ」
「そうそう。ときどきわけのわからない暗号文みたいなのがコルクボードに貼ってあるんだけど、仕事関係かって訊くと全部ゲームの攻略のためのメモなのよ。ゲームをやったことのない私は何度行っても不思議な空間にしか思えないけど、桐野君が見たら思わず立ち尽くしちゃうかもしれないわね」
「へ、へぇ……」
「で、その友香ちゃんからの命令なんだけど、もし起きて、やることが見つからない場合はゲームしてろって。頭使う勉強は禁止だって。だから教えて」

 ソフトをケースごと差し出して代谷は言った。
 出されるままにとりあえず受け取り、意味もなくひっくり返してみる。

「あ、もしかして桐野君は知らないとか? 弟君に聞いたほうが早い?」
「はぁっ、康士!? いいっ、いいぞあんなやつに頼まなくて。わざわざ康士呼ばなくたって俺もいける! これ5だけど4はやったことあっから!」
「そう。じゃあ、手ほどきのほど、よろしくお願いします」
「お、おうっ」

 どかっと桐野は腰を下ろしてケースの中からディスクを取り出すと慣れた手つきでセットした。電源を入れて、スタート画面が出てくるのを待つ。
 その間、代谷はケースに付属されている説明書とコントローラーを真剣な顔で交互に見つめていた。無言で集中する横顔にほっとするやら、恥ずかしいやら、虚しいやら、である。

(俺、ムキになりすぎ……)

 康士に頼むか、と代谷が言ったとき、つい叫んでしまった。叫んでから自分でビックリした。
 しかし代谷とくれば桐野の声にちょっと驚いたくらいで、すぐまたなんでもなかったように平然と自分の世界に没頭してしまった。

(もうちょいなんか反応示さないもんかね)

 ちらりと横目で代谷を見ると、同時に代谷がこちらを向き、目が合った。ぎょっとして変なところから汗が出る。

「な、なに?」
「なにって、はじまったみたいだけど」

 ついついと人差し指で教えるはテレビ画面。オープニングが終わって、画面中央にスタートの文字が出ている。
 あいかわらずのマイペースにこちらばかりが寿命を縮ませている気がする。
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