キミは聞こえる
「ああ、はいはい。まずスタートを押すだろ。ほら、画面にも指示があるから、そのとおりにボタンを押す。そうそう。代谷ははじめてプレイするわけだから新しい代谷専用データを作らなきゃならねーわけで、そうそうそこね―――」

 口頭で説明しながらとりあえずデータを作り終え、チュートリアルに進むとそこからが大変だった。
 そもそも。
 どこにどのボタンがあるのか代谷は理解できていないのだ。だいたいはゲームに慣れてくるとおのずとボタンの位置を身体が覚えて勝手に指先が動くわけだけれども、はじめてコントローラーを握るという代谷にその前知識が備わっているはずもない。
 「ここ?」「あれ、こっち?」と忙しなく首を動かして画面とコントローラーを交互に確認する姿に、

(病み上がりの人間にさせるべきではないよ、これは……)

 と、桐野は心の中で友香姉へ向けて突っ込んだ。
 四苦八苦する代谷を見かねてひょいとコントローラーを取り上げる。

「ちょい貸してみ。ここはこうすんだよ」

 代谷のキャラクターに指示を送ると、キャラクターはチュートリアルが求めている動きをなめらかに表現し、もう一回とプレイヤーへ注文してくる。

「―――おお、動いた」

 代谷は棒読みで感動を口にした。
 コントローラーを返し、桐野がしたのと同じように操作をすると、同じようにキャラクターが動いたためだ。あたりまえのことなのだが、はじめての彼女には喜びも一塩だろう。それにしてはあまりにも感情が乏しいけれど。

(実はそれほど感動してなかったり?)

 あり得そうで素直に喜んでやれない。俺ばかりハイテンションになってもこいつはきっと着いてこないだろう。……なんだこの心配。

 それから―――なんだかんだで三十分あまり代谷家に居座ることになり、ひたすら初心者プレイヤーに操作方法を教授することになった。はじめてやったわりに俺もなかなかいけるもんだな。

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