キミは聞こえる
「お兄さん、なんて言った?」
「なんてって……変なヤツに会って、逃げてきたトコで偶然会って、そのまま送った」
「その先は?」

ゲームが始まった。
もう会話をしながらもそれなりにキャラクターをコントロール出来るようになったようだ。ずいぶんな進歩である。

「玄関先で倒れて、客間に運んだって」
「そう」

 ちらりと横目に見た代谷はいたっていつもどおり、平静一色だった。
 痴漢に出くわしたならば多少なりとも動揺とか、心を乱したりとか、他人との接触をしらばく拒んだりとか、そういった変化を見せないものだろうか。あまりにあっさり友香姉の母は彼女を呼びに家に入っていったけれど、本人にも嫌がった様子はこれっぽっちもなかった。むしろ、ゲームの説明を求められるくらい、代谷はいたって普段どおりだった。

 せめて、そのときの場面を思い出すような話をしているときくらい、暗い表情になったっていいと思うのに。なぜそのように無表情でいられるのだろう。否、いるのだろう。

 気丈、と言うにはすこし違うような気がした。

「実は、その変なヤツって、あの設楽って人のことなの」
「―――はッ!?」
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