キミは聞こえる
この町に越してきてひと月ちかく。
はとこの友香(ゆか)に「こっちの学校に通いたいならうちにおいで」と言われたのでお言葉に甘えることにしたのだ。
引っ越しの原因は父の転勤。
といっても、転勤先がまさかの海外だったので友香の言った意味は、日本の学校に通いたいなら来たらいい、ということだった。
転勤が決まったのが一月の終わりで、そのころには高校の手続きが済んでいた泉は一人暮らしをする選択肢しかなかった。
だが、それを父親の藤吾(とうご)が大反対して伯母に、つまり友香の祖母に相談したところ「いいよ」とあっさり承諾をくれたので、泉はこうして鈴森南高校に入学したのだ。
慣れない土地に一人で行くことは不安だったけれど、友香がいるから、それに、新婚である藤吾たちの邪魔をしたくなかったこともあり、しぶしぶこの町に来ることを受け入れた。
――が、来てみれば予想以上にひどい環境だった。
緑が多く、自然豊かでいいところ。
だけどすこし寒い、と藤吾は教えてくれた。
百聞は一見にしかずとはこのことだと思った。
藤吾の説明がなんて手ぬるいものだったかを駅に降りた瞬間、この身を以て痛感しからだ。
すこし寒い?
バカを言え。
すごく寒い。
ダウンジャケットはかかさずフードをかぶり、マフラーを巻いて、手袋もして、耳当てまでしてもちっとも温かくならないというのは、もはや何かの冗談かと思った。
町全体で私をおちょくっているのかと思うほどの呆れる寒さ。
もとより冷え性気味ではあるのだけれど、この町に来てからというもの泉の末端神経は一日のうちのほとんどの時間死んでいる。湯船に浸かっている以外であたたかさというものを実感することがない。
もう一度言おう。
すこし寒い?
ハッ、まさか。
すごく寒い!
―――そしてもう一つ。
確かに緑は多くて自然豊かだけれど、この町には高い建物がない。
最高五階建てくらいだと思う。下手したらこのあたりでは学校が最も高いかも知れない。
おかげで町に着いた初めての夜、なんて空が近いんだろうと感動を通り越して泉は唖然とした。