キミは聞こえる
「え……?」
「お兄さんがすでに事情を知ってるってこともあったけど、誰よりも早く連絡をくれたから、話してもいいかなって思ったのかもしれない」
「代谷」
「本当は、昨日のこと、思い出すのも嫌なんだけど、桐野君、前に言ったでしょ。ため込むなって」

 そういえばそんなことを言った気がする。
 そして、無理だけはするな、とも。

(俺の言ったこと、覚えててくれたのか)

 だから、俺に打ち明けることを決心してくれたのか―――。

「それがあったから、一番に電話くれた桐野君に話そうと思った―――のかもしれない」
「そうか……。ごめんな、いやなこと思い出させちまって」

 代谷は首を振った。

「私が勝手に話したことだから、気にしないで。私のほうこそ嫌な話きかせてごめん。それでなくても引き留めてるのにこれ以上長居させたらせっかくの午前授業が意味なくなるね」

 今度は桐野が首を振る番だった。

「そんなことねーよ!」

 俺にとっては午後をダラダラ過ごすことより、代谷とこうしてゲームをしたり話をしている時間のほうがよっぽど重要だ! そっちのほうがずっと有意義な時間の使い方だ!

 ―――と言いたいのに、本人を目の前にするとなかなか思うように言葉が出てこない。
 溜め込むなと言ったのは他ならぬ自分なのに、生まれつき言い淀んだり思ったことを胸に留めたままにするといったこととは無縁の生活を送ってきたはずなのに、本当に言わなければならない言葉は喉元で詰まって、そこから先すんなりと流れ出てこない。

 肝心なところで素直に言葉が紡げない自分の弱さに無性に腹が立った。
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