キミは聞こえる

三章-11

「もうどこも具合悪くないの?」
「あったら家出してもらえてないから」
「それもそっか」

 口許に笑みを浮かべながらジュースのストローを咥えたのは佳乃である。
 場所は先日訪れた中森商店。平日にも関わらず店は満席で、とてもじゃないが中にいられなかった。
 そのため二人は、中で購入した例のセットとジュースを手に、外に設けられたベンチに並んでくつろいでいる。

「それにしても今日の代谷さん、頭からつま先まで真っ黒だね」
「うん。出かけるときはこれ着て行きなさいってきつく言いつけられてるから」
「なんでまたそんな言いつけ……」
「思い遣りは人一倍あるんだけどいろいろと厳しいはとこがいるものだから」
「大変なんだねぇ」

 しみじみと言う佳乃に泉は苦笑して、自身もストローに口を付けた。

 泉が出会った男が痴漢だと信じて疑わない友香は、次また彼女が襲われることがないようにと、外出用の服装を用意して仕事に出かけていった。

 真っ黒のロングパーカーに真っ黒のスキニー。真っ黒のブーツを履いて、顔には黒縁の伊達眼鏡を着用の上、パーカーのフードはかぶるようにとの指示。両手が空くように荷物は――よくあったなと思う――これまた真っ黒なリュックに詰めることとし、リュックのポケットには万が一のときに使うスタンガン、唐辛子スプレー、警棒、防犯ブザーが入っているという徹底ぶりだ。

 気持ちはこの上なくありがたいのだが、歩いているだけで周りから危険人物扱いのような目を向けられるのがどうにも不愉快でならない。

「この間はメールありがとね」
「なんで栗原さんがお礼を言うの。私の台詞だよ。こっちこそ心配してくれてありがとう」

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