キミは聞こえる
 翔吾の本来の姿を泉は知らないけれど、彼が周囲の言うことを聞かないのは、おそらく聞けないからだ。意識して無視しているわけではない。反応できなくなっているのだ。
 彼の中に潜む闇からなんとかして翔吾を呼び起こさなければ、翔吾は永遠に窓の外の世界からこちらの世界に帰って来ない。

 そう、直感めいたものを泉は感じた。

 心を読むことの出来る泉だからこそわかる。胸を打つ鼓動は焦燥だ。おかしいと感じるほどに、焦っている。

(だけど、なんとかしたいったって、私になにが出来る)

 人付き合いの苦手な自分が人のためになにが出来るというのか。
 友香の力にはなりたいけれど、翔吾のこともなんとかしてあげたいけれど、だからといっていざ人助けに足を踏み出そうとすると一瞬で頭の中が真っ白になる。
 
 いったいどうしたら……――――――――

 そのときだった。

「―――に。代谷ッ!!」
「うわぁっ! きっ、桐野君か。あぁびっくりした。大声出さないでよ」

 気づけばすぐ目の前に、仁王立ちした元祖マイペースが眉をつり上げて泉を見下ろしていた。
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