キミは聞こえる
「びっくりしたじゃねーよ! 何度も呼んだんだぞ」
「ごっ、ごめん、ぜんぜん聞こえなかった。何か用?」

 桐野は疲れたようにがっくりと肩を落とした。

「あのなぁ……。なんか用がないと名前呼んじゃいけないのかよ」
「私の中ではそれ以外に相手の名前を呼ぶ理由がないことになってる」
「なんだよそれ。おまえの辞書、どうかしてんじゃねーの」

 ……貴様だけにはどうかしていると言われたくない。
 無駄のない辞書だと褒めて欲しいくらいだ。桐野は余計が多すぎる。

「なにも用ないの? 今日は水まんじゅうないと思うけど」
「別に水まんじゅう目当てでここにいたんじゃねーよ。たまたまおまえん家の前とおりかかったら代谷が来たんで止まってみたんだよ。ただそれだけだ、悪いか」

 逆ギレかよ。
 怒らせるようなことはなにも言ってないはずなのに不機嫌になられる意味がわからない。

「悪くないけど。そういえばさっきのメールだけど―――ああその前に、隣のクラスの小野なんとかって人が桐野君のこと捜してたよ」
「電話来た。小野寺な」
「三分の二当たってた」
「なんだよその半端な満足は。小野まで出たら最後まで行けよ」
「そのうちね。それで、メールのことだけど、明日から康士くんが送り迎えしてくれるってどういうこと? もしかしてこの間の設楽って人のことで気遣ってくれてるの? それならもう心配はいらないよ」
「どういうことだ」
「友香ちゃんにいろいろもらった」
「……は?」
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