キミは聞こえる
「しかも送り迎え? いやぁやりますなー泉君。それだけ大事にされてちゃあ設楽に何の反応も示さないのもわかるってぇもんだわ。朝からラブラブなこって」

 顔を近づけてからかう千紗を押しのける。「そんなんじゃないよ」

「えー、じゃあ一方的に向こうが泉にメロメロなの!? どうやったらそんなこと出来るのやっぱ顔!? それともなんか向こうが喜びそうなことしてやったとか!?」
「千紗、声大きい。あの子、康士だっけ? 中学で人気あるんでしょー? よくやったわねぇ泉」
「………」

 朝っぱらからとんでもないことをぶちまけないでほしい。
 まるで泉が色仕掛けで康士を落としたかのような発言だが、そんな艶っぽいあれこれは一切ない。
 控えてくれ。
 校門前で知らない生徒もわんさかいるというのに、注目されたら堪らない。

「いろいろと取り込んだ事情があって今週だけ送り迎えしてもらうだけだよ。断るに断れなかったから」
「ちょっ、なにそれ泉!」
「取り込んだ事情ってすっごい気になるんだけど!」

 ますますヒートアップさせて二人は泉に詰め寄る。もう勘弁してくれ、そうおもっていると丁度よく前方に佳乃の後頭部を発見した。

「栗原さん!」
「あ、代谷さん。お、おはよう」

 佳乃に近づけばおのずと二人は離れていくとわかっていた。
 泉と佳乃二人の間に千紗たちが割り込んでくることはあっても、佳乃一人のところにはいくら泉が一緒でも進んで駆け寄ったりしない。

「なにか、あったの?」
「なにもないよ」
「宿題やってきた?」
「うん。教えてくれてありがとね」
「ううん。あ――――」

 佳乃の顔が泉のほうを向いたまま固まる。
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