キミは聞こえる
 しかし彼女の視線は泉ではなく、泉の後方へ注がれ、そのまま固定されていた。
 首を捻り、なるほどと思った。
 水道の前に小野寺が立っていたのだ。タオルで顔を拭っている。

「愛しの殿方は休憩中だね」

 隣でぼんっと湯気が飛び出す音が聞こえるようだった。

 朝っぱらから千紗と響子にからかわれてちょっとだけ腹が立っていた。だからすこしだけ八つ当たりをしてみたくなったのだ。
 これだけ期待通りの反応を返してくれるとなるほど、誰かをからかうのがこんなにすかっとする気分のいいものだとは。

 あまりに気分がよくてもうすこしだけ調子に乗ってみる。

「顔、真っ赤だよ」
「もっ、もう! 代谷さんのイジワル!」

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