キミは聞こえる
≪まさか君のほうから俺の心に潜り込んできてくれるとは思わなかったよ≫
≪気色悪い言い方はよして≫

 泉の努力などまるで無駄だったように、集中するまでもなく設楽の声はすんなりと流れ込んできた。
 胸を逆撫でされたようにざわざわしたものが這い上がる。

≪俺の想いに答えてくれる気になった?≫
≪望む回答が得られるとでも?≫

 設楽は笑った。
 顔の向きはバスケ部員だが、タイミングがあまりに合いすぎた。泉の返答にたいして笑ったに違いない。
 余裕がありすぎて腹が立つ。そこで悲しむ表情でも見せればすこしは可愛げもあるというものを。

 ……いや、
 悲しむ顔など見ればただ喜ぶだけで終わるな。ざまぁみろと腹で笑ってる。
 ―――しかしそんなことは今は関係ない。

≪いま、私はあんたの心を読んでるわけだけど、あんたも読んでるの?≫
≪なに言ってんの。会話、してるでしょ?≫
≪それは私たちだから出来るの?≫
≪どちらか一方が俺たちのような読心術を持っていれば可能だよ。―――多分ね≫
≪……多分?≫

 ずいぶんふざけてるなこいつ。この真剣な場面で。

≪死んだひいじいちゃんと会話して以来だから≫
≪じゃあそのひいじいちゃんに読心術はなかったわけだ≫
≪まぁそうだね。声帯切られてたから俺の両親とも祖父母とも会話が出来てなかった。孫はなにを言ってるかわかるって言うけど、俺の親父はそうじゃなかったみたいだ≫
≪ひ孫は出来たと?≫
≪俺も驚いたけどひいじいちゃんはもっと驚いてた。心の中じゃあ思ったことがすんなり声に変わる。口じゃあ声帯が切られる前からずいぶん話せなくなってたけど、俺が心を繋いだ瞬間にひいじいちゃんと会話が成立した。ひいじいちゃんてこんなに喋れたんだってくらいに≫
≪どうやって心を繋ぐの?≫
≪どうやってって、代谷さんはもう―――≫

「代谷さん、聞いてる?」
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