キミは聞こえる
 佳乃に声をかけられてはっと我に返る。

 無理矢理の意識の切り替えで一瞬頭がくらりとした。
 すかさず今度は設楽のほうから声を送り込んでくる。

≪慣れてないのに口と頭で別々の会話を繋ごうとすると頭が破裂するよ≫
≪あんたは出来るんでしょ≫
≪俺も自分がここまですんなり出来るとは思わなかったけどね。誰かの心を読みながら口で会話することに慣れていたからかな。代谷さんは、君の性格からして普段めったに心を読まないんでしょ≫
≪あたりまえでしょ。読心なんて、こんなの犯罪≫
≪犯罪、か。まぁ聞こえは悪いけど、そうかもしれないね≫

 なめらかに会話を続ける設楽。それも、バスケ部員と喋ったままだ。器用なやつというのか、集中力を分割する方法を攻略しているのか。聖徳太子もビックリだ。

 しかし泉はそうはいかない。
 佳乃に話しかけられると、その度に意識が途切れて設楽の声がぷつりと届かなくなる。

「え、あ、ああうん。聞いてる聞いてる。明後日(あさって)写真部で集まりがあるんでしょ?」
「明日だよ」
「ああごめん。明日だよね、明日、明日……」
「どうかしたの?」
「な、なにもないよ」

 首を振りながら、今だけでいい、お願いだから話しかけないでくれと、泉は思った。
 そうはいかないんだろうなと諦めながらも切に願いつつ、箸先でご飯をつつく。

「たぶんね、写真部はどこの運動部を応援に行くか、だと思うの」
「大会?」

≪バスケ部だと嬉しいな。俺、きっとスタメンだから≫
≪ちょっと黙って≫

「そう。吹奏楽部は野球部が当たり前だけど、その他の文化部は平等にくじ引きで向かわされるらしいよ」
「へ、へぇ……」

 屋外スポーツじゃないといいなぁ、と思っていると、

 またしても。
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