キミは聞こえる
 泉の周りには色恋沙汰に興味津々の現代女子が多い。

 それが普通の高校生だと言われれば返す言葉もないのだが、延々としつこくなにがどうした、なんと言われた、なにかあったかと尋ねられるのは正直耐えられたものではない。
 面倒は嫌いだし、鬱陶しいのはもっと嫌いだ。

 それらにも増してあの設楽という人間自体が生理的に無理だ。顔がいい男はそれだけですべてが許されると思ったら大間違いである。顔がよくても、無理は無理。察しがいいと千紗たちは褒めていたがそれも相手の心が読めれるからこそ出来ることだろう。

 心を読んで相手の敏感な部分を刺激しないよう注意する。

 それさえ守ればまず間違った方向へ大きく逸れ、事を荒げることはない。設楽はそこで相手が望む言葉を紡いだり、態度を取ったりするから、女子たちに「あいつはいいやつよ」と騒がれるわけだ。

 読心など、所詮はニセ占術だ。

 相手の思いを同時に読み取って、なにを考えているかぴたりと当てる。なにも知らないやつらには設楽はなんて思い遣りのある人間なんだろうと感動するだけだろう。

 しかし謎が解ければそんなのは尊敬ではなく、侮蔑の域だ。

 相手の心を利用してそれで女を手のひらで転がしているようならばなおのこと軽蔑する。

(なんであんな男がいいのかね)

 ときめく、という感情がいまだに理解できない。
 最近はむしろ友香に影響されて格闘ゲームで強いキャラを倒したときに感じる弾けた気持ちこそときめきではないかと思っているくらいだ。

「そういえば桐野ー」
「ん? なに?」
「今朝、泉があんたの弟と一緒に登校してたんだけど、あれってどういう意味?」

 まだ気になるのか。昼休みだぞ千紗、そろそろ忘れろよ。
 箸を咥えたまま桐野はにっと笑っ、て言った。

「康士の寝坊対策。あいついっつも遅刻ぎりぎりで先生に怒られるっつーから、迎えに行かせれば起きるだろ? 俺、賢くね?」
「いやいや、賢くね? じゃあなくてさ。じゃあ帰りは? 帰りも迎えに来てくれるらしいじゃん」
「そっちは野球バカ防止対策」
「……は? なにそれ」

 千紗と響子はそろって首を傾げた。
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