キミは聞こえる
 コート残り四分の一ほどまでゴールに迫ってきたときからはもう、設楽の一人舞台だった。

 周囲のチームメイトにパスしようにも、仲間がいいポジションにつけず設楽もボールを手放せなかったのだ。
 一人となった設楽は自分の世界を楽しむように自由をその身にまとい、翼を羽ばたかせた。

 キーパーではなく、泉へと向けられた視線はまさに光速の矢。

 逃れられず、構える余裕もなく、視線をそらすことさえも敵わず。

 設楽の見せたダブルスーパープレイに圧倒され、恐怖を植え付けられ、泉は立ち尽くした。否、動けなかった。

 網にかかったボールが地面に落ちる。
 たむたむ。跳ねる力ない音は、風に紛れてあっという間に消え去った。

 いまなお泉の前で微笑み続ける設楽という名の悪魔は、太陽を背負い泉へと不穏の影を落とす。

 離れない、離さない、二つの視線が、絡み合う。

(なに、こいつ………)
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