キミは聞こえる
いつか、自分も、こうなるのだろうか―――
ふと、そんなことを思った。
心を読むことへの遠慮も、躊躇も、愚かしさも感じず、呼吸をするように力を使い、誰かの心の声を聞き、のぞき見、生活を送るようになるのだろうか。
五十貝や理那その他大勢の者らから聞こえた、地獄からの叫びのようなどす黒い思い。
それらに感じた恐怖を忘れ、自分もまた、この男のようになってしまうのだろうか。
常人には余る力があるということは、すなわち、他の人間よりもはるかに滅びの道へ迷い込みやすいということなのではないのだろうか。
足が竦んだ。
保身のため、躊躇いなく力を使った自分がもっともおそろしいと思った。
―――いつか。
自分も、この男のように……
成り下がってしまうのだろうか………――。
「設楽戻れ!」
キーパーがボールを拾い上げる。
「試合中だぞ」
「わかってるよ」
≪じゃあね、代谷サン≫
仲間に返事をしながら背中でしっかり泉に挨拶を送ると設楽は走っていった。
「じゃあねじゃ…ねぇし……」
放物線を描いてはるか彼方へと飛んでいくボールを目で追う。
どうでもよかった。