キミは聞こえる
 遠くで、声がした。
 風が唸る。

 直後、激烈な圧迫を胸部に感じた。

 声もなく、泉は宙に飛んだ。
 自力で飛び退ったわけではない。気づけば、視界がコートから空へと移り変わっていた。
 抗う術がなかった。気力もなく、反応することも出来なかった。

「うっ……!」

 身体の背面に強烈な痛みが走った。鋭いそれは全身から集まり、やがて脳天へと突き抜ける。一瞬、呼吸が出来なくなった。

「泉!」
「代谷!」

 声は、ひどくぼやけていた。いや、彼らの声はきっとはっきりしているのだろう。問題があるのは自分だ。いま、自分が寝ているのは地面だ。後頭部を打ったらしい。意識が朦朧としてくる。

 そのわりに、冷静に現状を分析できている自分を褒めたい。

 しかし、この状況でここまではっきり物事を判断できるというのは逆に危険な証拠であろう。
 それを裏付けするように、次第に全身を覆う痺れと共に、視界が闇に塗りつぶされていった。

 首のあたりにあたたかいものが回された。それはほんのすこしだけ湿っていた。続けて膝の裏にもほどよい熱を感じた。やはりうっすら濡れている。
 それらがなんであるか、もう考えることは出来なくなっていた。胸が疼く。身体の隅々が痛い。

 身体が地面から離れる―――離されたのだ。

 誰だ、と思ったけれど、まぶたを上げているだけの気力さえ今はもう湧いてこない。
 固いが冷たくはないなにかに頬がぶつかる。汗と、土のにおいがした。しかし嫌悪を感じる余裕はなかった。

 体重を預けたまま、泉はとうとう意識を失った。

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