キミは聞こえる
一章-4
「思い切って訊いてよかったー。なんか一気に体が軽くなった気がする」
そう言って太陽のように笑う桐野に、大袈裟なとちいさく突っ込んだ。
なに? と首を傾げられたが、いいやなんでもと適当に流した。
「誤解も解けたことだし、これで俺たちれっきとした友達だな」
えっ、と思わずこぼれた声に、ん? と桐野は軽く首を傾げる。
「と、ともだち…?」
「そうそう友達。あ、もしかして俺クラスの友達第一号だったり? だったらうれしーかも」
「えっ、は、はっ!?」
泉は目をぱちぱちとさせた。
あまりに展開が早いというか、ここまで切り返しが早すぎると逆にこっちがどうすればいいかわからない。
(この人が、私の友達?)
いままでずっと女子ばかりの中で生活してきた泉に、男友達は一人もいなかった。鈴森町に来るまで同年代の男子とろくに話したことだってなかったのに。
いきなり「友達だね」と言われても、なんと返してよいかさっぱりわからない。
差し出された右手の意味を理解するのに数秒かかった。
「どうしたの代谷さん」
「え…あ、あの、その。私は、どうすればいいんでしょうか」
言ってしまってから、場違いなことを口にしていると気づき、顔が妙に熱くなる。
何を言ってるんだ私は。
「俺が友達じゃイヤ?」
「いや、そうじゃないけど」
「じゃあ握手しようよ」
空いた手で右の手首を掴まれ、強引に握られた。
桐野の手はあたたかかった。
「俺たちご近所さんでもあるんだろ? これからよろしくな」
「よ、よろ、しく」
そう言って泉は目と口をぎゅっと閉じた。
なんだか無性に体が熱い。
全身が異常なほど強ばっているのがわかった。
この男、男女七歳にして席を同じうせず、ということわざを知らないのか。
「なあー、なんでそんなに取り乱してんの? さっきまであんなに冷静だったのに」