キミは聞こえる
「同じ班とか関係ないから。ぼーっとしてた私が悪かったの。だから、気にしないで。ごめん、手、握ってもいい?」
「あっ、う、うん! はい」
「こっちは私が握ってあげるね」

 佳乃の手を掴むと、反対を千紗に掴まれる。……いや、そっちを握られては階段の手すりが掴めない、と思ったけれどせっかくの好意を無下にもできない。
 ありがとう、と笑う。

「ほ、ほんとうにへーき? 体重とか気にしてるんだったらそんなん全然―――」
「ちょっとー、デリカシーのない発言禁止」
「……」

 響子が制止したけれど誰もそんなところ問題点としてかすめてさえいない。
 泉に対しての―――というかレディーに対しての思い遣りはゼロか貴様。いまの発言も含めてどうかと思うぞ。

 引きずるように保健室を出ようとしたところで、桐野の声が背中にあたった。

「代谷」
「なに?」

 首を捻るのさえ、いまは苦しい。
 一度視線を左右に往復させた後、桐野は彼らしくない笑みをその頬に浮かべて言った。

「………コケんなよ」
「保証はしないけど」

 相手が桐野だからとつい思い浮かんだままの言葉を発してしまい、しまったと思った。隣に矢吹がいることをすっかり忘れていた。

「やっ、やっぱり俺が教室まで背負ってくよ」
「じょ、冗談だから。だいじょうぶ。行こ」

 見ると、女子全員がやや怪訝そうな顔で泉をのぞいていた。
 どきりとした。
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