キミは聞こえる
「本当に平気? あぶなっかしいなぁ」
「大丈夫だよ。信用ない?」
「ない」

 まさかの佳乃までが一斉に声を揃えてそう言った。それも即答だ。通りすがりの三年生が驚いて振り返るほどはっきりとした声で。
 苦笑する。

「じゃあそのときはしっかり頼むよ」
「任せなさいよ」
「うっ、うん!」
「というわけなので、それじゃあ」

 それでもまだ不安げな矢吹と桐野を残し、一行は保健室をあとにした。

 まるで介護が必要なお年寄りにでもなった気分だ。皆、泉をいくつだと思っているのだろうか。これでも三日に一度は牛乳を飲んでいるのだが。

 と、言ってみたところ、

 全然説得力がない。
 むしろ毎日飲め。
 毎時間飲め。
 にぼしをかじるのを習慣化しろ。
 それ以前にぼーっとするのをやめろ。
 特に体育は集中が足りてない。
 全体的にやる気が感じられない。

 ……と続けざまに責められた。さすがにしょんぼりだ。

 なおも痺れの止まない背中、胸、腹、尻、関節もろもろに彼女たちの声が響いて全身がみしみし言うようだ。もうすこし労ってくれてもいいのではないかと思うほどである。

「そういえば桐野君、お腹でも痛いの?」
「は? なんでここで桐野?」

 ロボットのような動きで帰りの支度を進めながら泉は千紗に尋ねた。
 同じチームの女子は部活に行ってしまった。写真部がはじまるまでにはまだ時間がある。

「めずらしく大人しかった」
「ああ、そういえばそうだったね。どうしてだろ」
「代谷さんのこと、心配してたから…じゃない?」
「心配してたらふつうもうちょいなんか言うもんじゃない? だって、桐野だし」
「そう。桐野君だし」
「それもそうか……」
「やっぱ腹痛かったんじゃない?」
 
 全員一致で妙な納得の仕方をしてしまっているが、果たして本当にただの腹痛だったのだろうか。

 コケんなよと言ってくれたとき、なんとなく違和感を感じた。
 それがどういうことなのか、泉自身にもよくはわからないのだけれど、あのときの桐野は変だった。
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