キミは聞こえる

三章-14

 退屈だなぁ、と思いながらこれという意味もなく空を旋回する鳶をぼんやりと目で追っていると、ばたばたとうるさい足音が教室に入ってきた。

「やっと終わった」

 突っ伏した上体を起こしてゆらりと入り口のほうへ顔を向ける。

「……おまえさぁ、そこは普通、おつかれ! じゃねぇの?」
「おつかれ~」

 まったくこいつは、と額に手を当てて呆れている暇があったらさっさと着替えろよと思う。

 宿題も終わり、読んでいる本もなんとなく進みが悪くて手を止めてから暇で暇でしょうがなかった。
 一人きりでいる時間は嫌いではないけれど、それはなにかすることがあってという前提での話だ。

 ばらばらの吹奏楽部の演奏を右耳で聞きながら左耳でグラウンドの野太い吠えを聞いて。まったく、眠れたものじゃない。ついでにやることもない。

 つまらん。
 じつに、つまらん。

「おまえん家、今日結婚式で夜まで帰ってこないんだってな」
「そうみたい」

 ようやく着替えはじめた桐野に背を向け、答える。
 なぜ女の自分が男の衣擦れの音を背中で聞かなければならぬのかと多少の疑問を抱きながら。

「友香ちゃんのいとこがね、結婚したんだって。めでたいね~」
「……ちっとも祝福してるように聞こえねぇんだけど」
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