キミは聞こえる
 探せばツナ缶くらいならあるだろうし。

「あなたはせっかくのご厚意を無にするのですか?」
「いきなり神父みたいな口調にならないでよ」

 まぁ神父となんて話したこともないけれど。
 イメージだ、イメージ。

「本当に行ってもいいの?」
「そう言ってンだろ。着替え、終わったぞ」

 荷物を持って立ち上がる。
 振り返ると、制服に着替えた桐野が脱いだユニフォームをぐちゃぐちゃにカバンに詰め込んでいた。

 鼻先が妙に茶色い。
 
 血色の悪さ故か? 

 いや、ちがう。
 あれは……。

「ちょっとじっとして」
「なに………っな!」

 歩み寄ると顔を傾げ、鼻先をティッシュで拭う。
 見れば、やはり泥だった。

「ほら」
「なにが――あ、ど、泥?」
「鏡くらい見ればいいのに」

 つかつかとごみ箱に向かいながら泉は言う。

 放課後になると、ごみ箱は教室の隅、掃除用具入れの中にしまわれてしまう。
 取っ手を引いてティッシュを放り、元通りに閉めようとしたそのとき、ドアに取り付けられた鏡に桐野の顔が映った。

 泉のすぐ後ろに、桐野がいた。

「別にいま見ろとは言ってないんだけど」
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