キミは聞こえる
そう言うと同時に、両手で手を握られてぎょっとした。
女子同士ですらほとんどスキンシップのなかった以前の学校生活。こんなどっきりあり得ない。
桐野にとっては手を触るくらいなんてこともないのかもしれないが、泉にしてみればなんと心臓に悪いことか。
平然と握るその表情を見て、うさんくささが倍増した。男女お構いなしにしているのだとすればそれはかなりどうかしてると思う。
油断大敵だな。泉は脳にそうきつく書き留めた。
「明日は自分からおはようって言うこと。いいな。約束だぞ」
小指を立てられ、泉はそれを凝視した。
なんだ、これは。
寸の間かんがえ、はっ、と軽く目を見張る。
まさか、私にこれを触れと言うのか?
指切りしろと? 信じられない。
するだけ無駄だ。約束したって、本人にはその気がないのだから。
泉は見つめることをやめ、姿勢を正した。
すると瞬時に喝がはいる。
「おい、代谷。やくそく!」
いつの間にか"さん"が消えてしまっている。呼び捨てを許すほど親しくなったつもりはないのだけれど。
(ああ、もしかして)
ふと浮かんだある考えに、泉は半ばげんなりした。
これが桐野の言う友達になった、だろうか。
(……はあ)
ここまでくると呆れも愕きも通り越して感服すらする。さすがだ。さすが人気者。まるで後光が見えるようだ。
ああ、なんてめんどくさいやつなんだろう。
そう思いながらも指切りをしなければ解放してもらえないのだろうことは目に見えているので、泉はしぶしぶ小指を伸ばした。それを桐野の骨ばった指が絡め取る。
「うそついたら針千本のーます。指切った」
切られた。