キミは聞こえる
「あらそう。英語は堪能なの?」
「全然だと言ってました。いまごろ苦労してると思いますよ」
「さらっと嬉しそうに言うなよ」
「別に嬉しいとは思ってないけど。すこし老けてもらわないと親子に見えない」
「友達親子っていま多いじゃん。若作りな母たち」
「作らなくても若いの。男の人が見たらきっとぐらっと来るほどの美人だよ。私、女だからわかんないけど」
「そんなに綺麗な人なの?」

 桐野母がまぁと声を上げる。
 先ほどの食い付きから感じていたが、女はこの手の話に弱い。
 家庭の事情系は大好物のはずだ。美遥も昼ドラマ大好きである。継母という響きだけでたまらないだろう。

「だから親子に見られる以前に、どこに行くにしてもとなり歩くのに釣り合い取れなくて」

 まるで姫に仕えてる侍女のような気分になるから不思議だ。

 自然と一歩下がりたくなる気持ちを、佳乃ならわかってくれると思う。あの子ならきっと三歩は下がって歩く。

「あら、泉ちゃん知らないわね」
「え、なにがですか」

 どこか楽しげに桐野母は口許を弓形にしている。
 桐野に視線を向けると、桐野もさぁという顔で首を傾げた。

「代谷がなんなの」
「泉ちゃん、今度のお祭りでミスコンテストに出さないかって隣組で囁かれてるのよ」

 おもわず箸が止まった。

 ………は? コンテスト? 隣組?

「隣組ってなに?」桐野に囁くと「町内会の中にあって、さらに細かく分けたご近所組織」と端的に返した。
 わかるようでわからん説明だ。

「代谷さんがミス鈴森に?」
「そうなのよ。どうかって、泉ちゃんが来たときから言われてるの。あんたたち聞いたこと無かった?」

 三人は首を振った。

「つーか、高校生は出場禁止じゃなかったのか」

 早々に食事を終えて暇を持て余していた悠士が携帯をいじりながらそう言った。

「ほら、参加者が少なくて年齢制限が下がったのよ」
「今年からすこし賞品も豪華になるらしいぞ」
「そんなんで人が集まるかよ」

 康士が忍び笑いを漏らす。

「それが結構集まりいいみたいだぞ。スズナンじゃあ出るやつ多いみたいだよな、兄貴」
「知らん」
「友香姉も出たことあるんだぜ」
「へぇ」

 康士が教えてくれた。初耳だ。
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