キミは聞こえる
「そんときは準グランプリだったっけ。賞品は図書カード三千円分だったよな」
「今年の優勝者には賞金十万円が渡されるそうよ」

 おお、と桐野家男衆が驚きの声を上げる。

「マジかよ。町長がんばったじゃん」
「毎年隣町のグランプリに負けちゃってるからね~。泉ちゃんが出れば今年こそ、と思われてるみたい。どう? こういうの興味ない?」

 ない。

 と即答できればよいのだが、生憎とこの場にいるのは桐野だけではない。普段どおりにというわけにはいかない。

「隣町のグランプリって、どういうこと?」
「鈴森町のグランプリと隣町のグランプリとで最終決戦をして、勝った町にはトロフィと県が所有する鈴森町と隣町の土地の一部を来年無償で貸し出されるんだよ。もちろん、優勝者にはまた金が出る」

 十万もねぇけどな、と桐野は付け足した。

 どうりでか。納得だ。隣組とやらで泉が前々から推されていたのは、町のプライドを守るための道具として適していると思われていたからだろう。

 冗談じゃないと思った。

 私は見せ物じゃない。

 だいたい……――――――

「私にそんな器量ないですよ」
「そんなことないわよ」
「そうさ。そうじゃなければ雪が溶けきる前から話なんて出ないからね」

 はぁ、と曖昧な返事がこぼれる。

 出たいはずがなかろう。目立つのは嫌いだ。別に賞金に心が揺れることもない。だいいち、面倒だ。期待されるのもこれまたしんどい。

「出たくなければ出なきゃいいんじゃね」

 最後の一口を呑み込んだ桐野が水の入ったコップを掴んでそう言った。
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