キミは聞こえる
「ごちそうさまでした」
「また遊びに来てね。進士、あんた泉ちゃんを家まで送っていきなさい」
「ああ、わかってる―――」
「平気です。すぐそこですから」

 食欲はあるようだったが桐野は体調がよろしくないのだ。今日は早めに休んだほうがいい。
 玄関に降りようとする桐野を遮り、制す。

「だけどもう遅いし、あたりも真っ暗だから」
「送ったらまた帰らなきゃならないじゃないですか。大丈夫です」
「いいよ、俺、送ってく」

 断りながらじりじりと背後のドアへと後退していく。
 気にせず桐野が靴に足を入れようとするので泉はもう一度、今度はもうすこし強めに、拒否の色を含めて、言った。

「大丈夫です。平気だから。桐野君は、もう外に出ないほうがいいよ。じゃ、じゃあお邪魔しました」
「あっ、おい、代谷」

 一方的に話を絶ち切って頭を下げると外へ出た。

 やや早足で夜道を進む。
 寒さと縁を切ったとはいえ夜はまだ上にもう一枚羽織り物が欲しいかなと思うくらいにまで気温が下がる。
 寒い。早く帰ろう。もうすぐ友香たちも帰ってくるはずだ。風呂を沸かしておかなければ。

 そのとき、後ろから足音が近づいて来た。

 反射的にリュックの横ポケットに手をかける。そこにはスタンガンが入っていた。
< 296 / 586 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop