キミは聞こえる
県内でも人口の集中しているほうだと言われたが、今まで東京暮らしだった泉からすればその差は天と地ほどある。そして数多の疑問。
たとえば――
どうして歩道でもないのに堂々と道の真ん中を歩けるのか。
どうしてエスカレーターを使うときどちらか一方に寄ろうとしないのか。
どうしてこんなに静かなのか。
どうして信号が縦なのか。(それは、積雪の重みで故障するのを防ぐ為だとあとから友香に教わった)
どうして――。
疑問は尽きない。
とびっきり寒い朝、毎日ベッドから出るのに必ず五分は要する。真っ暗な夜は物音一つなくてかえって怖い。
いろんなことにカルチャーショックを感じて着いて二週間は毎日へこんでいた。
今ではよほど慣れたけれど、このあり得ない寒さはまだ無理なようだ。平気な顔で授業を受けているやつらの気が知れない。
「えー、では今から五分時間を取ります。黒板に書いた式を写してください」
はじめと共に一斉に頭が下がったので仕方なく泉もノートに視線を落とした。
黒板に書かれている内容はすべて中三のときに終えている。他の科目もそうだ。かろうじて国語と英語だけは教科書が違うため文章が被ることはないけれど内容は似たり寄ったりで、やはりつまらないと思ってしまう。
(五分て、長くない)
友香の祖母が理事長のこの高校はさしてレベルが高い学校ではないらしい。
理事長権限で入試を受けることなくすんなり入学出来たのもその点を反映しているのだろう。オープンな学校ということだ。
公式をたかが二つ三つ写すだけなのに五分も無駄にしている時点で底が知れる。
けれど、おかげで時間を持て余すことが出来て内心嬉しかったりもする。
真面目に授業を聞くことほど、疲れるものはない。