キミは聞こえる
……体調不良だからか。
いやいや……桐野の具合が悪いと、調子が変だと思っていたけれど、実際のところ、病んでいたのは身体ではなく、心のほうだったのだ。
泉が桐野のいないところで設楽と和解し、想像するだけでぞっとする関係に進展しているかも知れないと案じていてくれていたから。
設楽は、読心に関しては泉よりよほど明るい人間かも知れないが、男としてはマイナス面しか持ち合わせていない。そんな男に心が傾いたら危険だと、桐野は考えてくれていたのだろう。
いままで言いずらかったのは、泉がもし本気で好きだと言えば自分に止める権利などないと、踏み出そうとする足にブレーキをかけていたのかも知れない。
だとすれば余計な気遣いだ。
(他人のことなのに、よくそこまで神経つかえるよ)
感謝してもしきれない。そこまで心配してもらえると、かえってこちらが気を使うではないか。
もう少し、自分のことを考えたらどうかと思う。
優しい人間だということは認めるけれど、他人のためにいちいち桐野が桐野でなくなる必要はないだろう。
ふと、おもう。
……そんな冷めた考え方しかできないから、自分は桐野のように陽の当たる場所へ行けないのだろうか。
面倒を回避するためだけに。
相手のためではない、自分のために力を使って、それとなく過ごせればそれでいい。
桐野は、そんなふうにはきっと考えないんだろう。
たとえ桐野が異常なのだとしても、それを褒めながら、一方で、疑問に思えてならない自分がいる。
おかしいんじゃないかと白い目を向けがちになる。
たぶん…それらが泉の、本心だ。
ため息をつく。
さいてーだ、私……。
「たいした会話してない」
「そうか……」
それ以外に言えることがなくて、また桐野の声が小さくなる。
本当に、彼はよく心配してくれる。
自分じゃない、赤の他人のために、よくここまで。
だから、なにかお礼をしたくて。
思いついたことを、そのまま言ってみる。