キミは聞こえる
「ねぇ」
「ん?」
「今度、お祭りがあるの?」
「は? いきなり、なに」
「私、向こうでお祭りとか、ほとんど行ったことないの」
「……だから?」
「案内」

 桐野はぽかんとして泉の顔を見つめる。

「あ、それとも先客がすでにいるとか?」

 桐野はモテる。
 常にきゃーきゃーとサッカー部には取り巻き女子が詰めかけている。
 その大半を桐野兄弟が占めていると聞いた。悠士には友香という恋人がいるから関係ないとしても、桐野は―――。

「いっ、いない! いないいない! そんなの、いないからっ」
「じゃあ、連れてって」

 焼きそば、お好み焼き、綿菓子、くらいなら買ってあげてもいい。

「わ、わかった」

 ちょっとだけぶっきらぼうに、上ずり気味の声でそう言って、桐野はアゴを引いた。

「……おまえ、やっぱミスコンとか興味ないだろ」
「うん。ない」

 肩をすくめて、だと思った、と桐野は息を吐く。 
 
「きっぱり言い過ぎ」
「出たほうがいいと思う?」
「いや、そんな代谷次第じゃん。嫌だと思ったら出なければいいし」
「私が見せ物になるのは心配じゃないの?」
「え――」

 桐野は口を小さく開けたまま固まった。
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