キミは聞こえる
「設楽って人よりさらにおかしな人に近づかれちゃうかも、なんて。冗談だけど。また引き留めちゃってるね、ごめん」
「い、いや…いいけど」

 そこでちらりと桐野は目を逸らした。

「……俺は、代谷がコンテストに出たら、心配、する…とおもう」

 生真面目な桐野の言葉に、ことり、と胸の奥で聞き慣れない音がした。
 寒いはずなのに、身体の奥がじわりと熱を帯びる。

「そう」

 みんなにたいしてここまで気を回しているのだとしたら、どれだけ苦労しているのだと思う。

「じゃ、じゃあ俺、帰るな。祭ちかくなったら連絡するから。おじさんたち帰ってくるまで、鍵、かけておけよ」
「うん」



 桐野を見送って、泉は中に戻ると言われた通り戸締まりをして、そろそろ帰るだろう代谷家の面々のため、風呂のスイッチを入れに脱衣所へ足を向けた。

 鏡に映った自分が、視界の隅に映り込む。


 ……誰かを思うことは、簡単なことではない。


 すくなくとも、泉が桐野のようになれる日は、はてしなく遠いだろう。

 ……否、遠いよりもっと―――見えてこない。
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