キミは聞こえる
四章『それぞれの戦い』
掃除開始を告げる軽快なメロディがスピーカーから流れてくる。
机をよっせよっせと運んでいた泉の元に、千紗と響子が駆け寄ってきた。
開口一番、千紗は鼻息荒くこう言った。
「泉、今度のミスコンテスト、出る?」
首を振る。と、千紗の顔がぱあっと華やいだ。
「千紗、参加するの? ミスコン」
「出るよ! 出るに決まってんじゃないのよ泉さん! 十万は大きいでしょ。諭吉十枚よ、十枚」
声が大きい。
仮にも華の女子高生。福沢諭吉の名を、教室のど真ん中で叫ぶのはあまり感心できることではない。
「まぁ確かに。高校生に現金プレゼントってのはいかがなものかとも思うけど、そろそろ隣町に一泡吹かせたい町長の気持ちもわからなくはないからね~」
腕組みをして響子がうんうんと頷く。この町育ちでない泉にはその感覚がよくわからない。
「それにさ、鈴森には不細工しかいないと思われるのも癪でしょ。隣町のグランプリだって毎年たいした美人でもないのに五年連続トロフィー奪ってっちゃってさ。さすがに悔しいじゃん」
熱のこもった口調で千紗は言う。
一応、彼女なりに金目的以外の参加理由はあるらしい。プライドが許さないのは郷土愛か。美しいことだ。
「なるほど」
「それで、よ。わたくし千紗はグランプリを狙いに行くため、昨日からダイエットに励んでいるのです。だからみんな、私に菓子を与えるのは禁止ね。私の視界の中で食べるのも禁止だからね。わかった?」
そんなのこっちの勝手だろう、と泉は思った。
その程度のことで自制心が揺らぐのなら、はじめからダイエットなど考えないほうが賢明だ。
痩せなければいけないほどの体型でもあるまいに。
「服、何枚買えるかなぁ。あっ、夏休みの水着も買わなきゃー。そうそう、十万あれば欲しかった漫画、全冊購入もいけちゃうかもぉ」
夢みる乙女の頭上にはグランプリを獲得したあとの輝かしい日々が綿雲になって現れている。
勝利しか見えていないところが千紗らしい。
「わかったって。でも、食事制限とかはやめなよ。そういう無理すると、かえって太るんだから」
響子の意見に一票だ。
千紗はへーきへーきとひらひら手を振った。