キミは聞こえる
二章『勉強合宿の夜』

 寒い、と泉は思った。

 風呂の順番が回ってくるまで一眠りしようと考えていたのだがどうにも体が冷えてうまく寝付けない。
 目を細め時計を見上げて、あれ、と思わず首を傾げた。

(おかしくない、あの時計)

 どう考えても進みすぎ……


 ――いや待て。……まさか。


 カバンからしおりを取り出して日程のページをめくる。
 軽く、頭が痛くなった。

 やっぱり、そうか。

 泉達の風呂のスタート時間はとっくに過ぎていた。
 携帯を開いても、時間は壁掛け時計とまったく一緒。遅れても、進んでもいない。

 間違いなく今は今だ。

 つまり……。

(サイアク)

 予定が大幅にずれている、ということだ。

 女子は風呂がやたらと長い生き物である。

 学校行事とはいえ、こんなときでも平気で長居するアホは必ずクラスに二、三人いて、ひとクラス三十分と決められているのにもかかわらず、彼女たちはそれをまったく気にしない。

 計算では軽く一時間はずれている。ずいぶん押しているようだ。勘弁して欲しい。
 いつになったら暖かい布団で寝られるのだろうか。その前に凍えてしまいそうだ。

 はぁ、とため息を吐く。

(この町って、ほんと異常……)

 押し入れから毛布を引っ張り出そうと思ったが、その前で同じ班の女子たちが明日までの宿題に追われていたので仕方なく諦めた。

(我慢よ、我慢、泉…)
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