キミは聞こえる
 なにあいつ、と思われ続けることは、そう思ってくるやつらを無視していれば気になどならない。

 けれど、本当に無視してよいかわからない場面で無視をすれば、それは後悔となって泉の中にしこりのように残り続ける。

 ふいに理那のことが思い出されて、泉は胸の内でかぶりを振った。

「泉」
「やっぱ、泉って、違うよ」
「それは……変、って意味ですか?」

 同時に噴き出す二人。

「いままでの話、聞いてた?」
「すごいって言ったじゃん」
「すごく変、かな…とか?」

 無意識に語尾が上がった、次の瞬間。

「なに言ってんのよ!」

 同時にばしんと両肩をそれぞれに叩かれて前のめる。ちょっとむせた。

 笑いながら二人に引っ付かれて、ぬくいような痛いような、いやそんなことよりこんなことをしているとそろそろ……と思っていると、

「こら! いちゃついてないでとっとと掃除しろ掃除ッ!」

 予想通り、安田から喝が入った。

 それらを眺めながら桐野やニキビたちがくすくすと笑っている。

 いつもならここで決まっていらっとするはずなのに、そのときばかりは不思議と腹立たしさを感じなかった。
 むしろ、笑い合っている桐野にほっとしている自分がいて、泉は小首を傾げた。
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