キミは聞こえる
四章-2
チャイムが校舎の中に響き渡る。
と、どこかの教室のドアが勢いよく開いて、廊下を走り去る生徒が二、三人。部活に急ぐのだろう。
泉には理解しがたい感覚だが、試合が近づくと放課後の練習時間は一分一秒とて無駄にしたくないものらしい。
写真部は本日も休みである。なんと喜ばしいことか。
日々活動がある部と違い、写真部の活動は抜群に少ない。その貴重な活動日をさぼって―――もとい、休んでから活動がないため、もはやその前の回にやった内容をすっかり忘れてしまっている。
出展作品提出日はとうに過ぎているため、新たな内容が発表された気がするのだけれど、なんだっただろう。
まぁ、いいか。
さすが私。どうでもいいことはさっさと記憶から処分されていく。
無駄がないことは、実に美しい。
晴れ晴れとした空の下、早々に着替えを済ませた外部活の部員たちがちらほらとグラウンドを駆けているのが見える。若いなぁ、としみじみ思う。
のんびり荷物を詰め終えると、よっこらせと心の中で声をかけて立ち上がる。
担当の教師と入れ替わりに安田が荷物を抱えて教室に入ってきた。
「代谷、栗原、呼び出しだ。いますぐ理事長室に行け」
残っていたクラスの視線が一斉に二人へと向けられる。佳乃の肩がびくんと飛び跳ねた。
なんだよ、とちょっぴりふて腐れる。
ようやく帰れると喜んでいたところだったのに。
肩にかけたカバンを下ろして後ろのドアから廊下に出る。なぜかその後ろを佳乃が追いかけてきた。
彼女の席からなら前のドアから出た方が早いだろうに、何故わざわざ遠回りをしているのか。
「な、なにかした、かな…わ、私たち」
いまにも噛みそうなほどびくびくしながら佳乃は尋ねる。知らねぇよ、と思いながら「さぁ」とだけ返した。
隣のクラスの前を通り過ぎようとしたちょうどそのとき、なんと不幸なことか、教室から小野寺と設楽が揃って出てきた。
一方は当然の反応である偶然を驚いた様子をみせ、もう片方はにっこりとお得意の甘甘スマイルを振りまいた。
げぇ、と思った。