キミは聞こえる
「栗原さんが撮った写真で間違いないわね」

 理事長の問いかけに裏声が飛ぶ。

「はっ、はい!」
「それで、このモデルが代谷さん…で、合ってるわよね?」
「…………はい」

 学校では基本、理事長、代谷で呼び合うように決めている。公私混同を避けるためだ。慣れないものがあるが、仕方ない。

 写真を見つめ、かすかな不安が胸をよぎった。

 この写真がなんだというのだろう。理事長の親族にあたる者がモデルをしてはまずかったのだろうか。

 というか、なぜばれたのだろう。
 逆光でパーツはほとんどわからないし、ポニーテールの髪型は泉にはまるで馴染みがないし、それ以前に、顔の五分の四は窓へと向けられてほとんどわからないのに。

 焦りはじめる泉の隣で、佳乃は口から泡を噴きそうな勢いで目をぐるぐる回している。このままではそのうち倒れそうだ。

「実は、この写真を全国コンクールに出展しようかという話が出ているのだけれど」

 いま、なにか飲み物を口に含んでいたら、確実に理事長の顔に吹きかけていた。

「こっ、コンクール、ですか!?」
「なにもそう取り乱す必要はないわ。ただ、応募するだけです。賞をもらえるかどうかは発表されたときわかることですから」

 いや、それはあたりまえだが……それにしても……コンクールとはまた突飛な話が来たものだ。

 コンテストだのコンクールだの大会だの、人間はつくづく順位をつけるのが好きな生き物である。うんざりする。

「応募作品の数に制限はないの。ただ、各学校に一つだけ推薦枠というものが設けられていてね、それに栗原さんの作品はどうだろうかという話が出ているのよ」

 佳乃に話しかけているが、佳乃の魂はすでに彼女の中から飛びたってしまったらしく、理事長の話は聞こえていないようだ。
 代わりに泉が尋ねる。

「推薦枠、ですか?」
「そう。いわば学校代表ね。もちろん一般応募の作品も平等に評価されるけれど、推薦枠で応募した方がより賞を勝ち取りやすくなるわ」

 目に留まりやすい特別な措置を取ってくれるのかも知れない。
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