キミは聞こえる
「焦らず、ゆっくり考えてみて。次の部活はいつ?」
「ら、来週の木曜日だったと、思います」
「そのときコンクールの話が出ると思うわ。また新たに写真を撮るも良し、使い回しも良し。あくまでも職員たちの中での話だから、最終的には栗原さんが決めることよ」
「はい……」

 理事長が腰を上げたので、二人も立ち上がる。
 机から捺印を取り出して理事長は戻ってきた。

「泉、いいわね?」
「はい」

 判子が押しつけられて、苔(こけ)を押したときのように朱肉がじゅわりと液を出す。

「用は済んだわ。栗原さんは帰っていいわよ。代谷さんはもうすこし時間あるかしら」
「はい」
「し、失礼しました」
 
 帰りは帰りでドアに尻をぶつけた佳乃は痛みに顔を引きつらせながら理事長室を出て行った。
 
 動揺しすぎだ。

 しかし、ソファに不注意に沈みすぎたときのそれとはすこし違うような気がした。

 考えさせてくれと言った佳乃らしからぬ言葉と関係があるのだろうか。それともやはり単なるテンパリ過ぎか。

 あいかわらず理解するのがムズカシイ子だ。

「泉、ちょっとこっちに来て座ってくれる?」
「あ、はい」
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