キミは聞こえる

「そうなんですか」
「悠士くんにはいずれこの学校を任せることになるかもしれないわね」
「それってつまり……」

 将来的には友香の婿に迎えようと思っている、ということか。

「ええそうね。友香の父親は経営者は嫌だと言って聞かないし、友香はあの仕事だし、残るは悠士くんしか頼る人がいないけれど」
「長男、ですよね」
「そうなのよねぇ。下に男の子二人いるけど、そう簡単にはいかないでしょう」
「かもしれませんねぇ……」

 苦笑する。というか、顔が引きつる。
 これは高校生相手に話す内容なのだろうか。

 分家も分家の出の自分だから気兼ねなく打ち明けるのかも知れないけれど、こんな話をされても心底困るのだが。自分に兄弟はなく、泉自身男でもなく、父も自営業ではない。
 跡継ぎ云々の話題はさっぱりだ。

 理事長はどうやらお団子にしたかったらしい。
 くるくるとねじりあげた髪の束を根元のゴムを囲み覆うように巻いていく。あちこちに器用にピンを止めながら形を固定していくと、徐々に完成の図が見えてきた。

「でもきっと、なにがあろうと悠士くんは友香を選ぶのでしょうね」
「え?」
「それが彼だから」

 よほど友香を愛しているらしい。
 当人たち以外の者がここまで言い切れるほどに。

「友香ちゃんは、幸せですね」
「泉は?」
「え……?」

 なにを訊かれたのか一瞬わからなかった。鏡越しに理事長の顔をうかがい見る。

「いま、幸せ?」
「しあわせ…ですよ」
「ほんとに?」

 なんなんだいったい。肯定以外にどう答えろと言うのだ。

 言葉を探す泉に理事長はさらに厳しい問いを投げかけた。



「学校は楽しい?」
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