キミは聞こえる
「それは……私が、楽しくなさそうに思われているってことでしょうか」
「別にそういうことではないのだけれど。いえね、この間の職員会議でたまたまあなたの名前が挙がったらしいのよ」
「なんてですか」
「授業中、なにか物足りなさそうにしている、みたいなこと」
 
 ほんのすこしだけ言いずらそうに理事長は言った。

 焦った。

 とうとうつまらないオーラが教師たちに伝わってしまったらしい。

「迷惑、かけてますか…私」

 あからさまな態度を取っていたつもりはないが、多少なりともうんざりした顔をしていたことはあったかも知れない。それを敏感な先生が見つけて、告げ口したのだろう。

 まずいな、と泉は思った。

「迷惑だなんて。誰よりも真面目に宿題をこなしてくるし、他の生徒が黙り込んだとき泉を指名すれば必ず答えを返してくれる。だからとても助かってると先生方は仰ってたわ」
「なら私は、これからもこの学校にいてもいいんでしょうか。それとも―――」
「なに言ってるのよ。泉がいたいなら卒業までいてくれてまったく構わないのよ。ただ、私たちはあなたのことを心配しているの」
「……しんぱい?」

 ええ、と頷きながら理事長は振ったスプレーをお団子を中心に頭部全体にかけていく。
 セット完了か、と思いきや、彼女は最後に前髪に櫛を通しはじめた。目を閉じる。

 なにも見えなくなって、鼓動がかすかに早まりはじめていることを感じた。

「ほんの数ヶ月通ったくらいで泉の実力をすべて理解したとは思っていないけれど、泉の成績はこの学校のレベルではないと思うのよ。入試、入学直後の学力試験、日頃の授業態度を総合して検討してみた結果、泉がこの学校で三年間を過ごし通すことが必ずしもあなたのために役立つかわからないと先生方は思っているわ。

 このままこの学校のやり方に泉を溶け込ませるのは宝の持ち腐れになるかも知れない。泉の実力をより伸ばす手助けが出来るかどうか―――」

「私は、中学時代に自分の勉強法を身につけてますから、心配しないでください。教科書の内容で足りないと思えば、本屋に行って補います」

 理事長を遮ったとき、泉は自分が思いがけず必死になっていることに気づいた。

 そして、あまりに失礼なことを口走っていることも。
< 345 / 586 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop