キミは聞こえる
 ……藤吾は、泉が一人になることをなにより嫌がっている。なんとしても、彼らが帰国するまではこの地に置いてもらわねば困るのだ。

 追い出されないようにしなければという使命的な思いが常に念頭にあったせいだろう、気づけば口が勝手に動いていた。

 やってしまった、と思ったちょうどそのとき、理事長の手が止まった。
 冷や汗が背筋を伝う。

「そう。泉がそう言うならもう私から言うことはないけれど……。もし本屋に泉の求める物がないときは言ってね。取り寄せてあげるから」

 声の調子はいたって普段どおり、落ち着いた中にも優しさのあるおだやかなものだった。――けれど、どんな表情をしていたのかまではわからなかった。

 見る勇気がなかった。
 すこしでも寂しげな顔をされたら、いたたまれなくて、これからどう付き合っていけばいいのか――

 ……考えるだけで頭が痛くなる。

「すいません」
「よし、出来た。どう? なかなか可愛いでしょう?」

 おずおずと鏡をのぞき込む。見慣れた笑顔が泉の斜め上にはあった。

 ほっと胸をなで下ろす一方で、そんなこと言われても、と思った。はい、可愛いです、と頷けるキャラでないことは理事長もわかっているはずだ。

 だから無難な言葉で逃げる。

「はじめてしました、お団子」
「あらそう。泉はきっと頭蓋骨の形がいいのよ。横から見てもとっても素敵だわ」

 どんな褒め言葉だよ。

「泉はもう帰るのかしら」
「はい」
「そう。気を付けて帰るのよ」
「はい」

 立ち上がり、失礼しようとする泉の背に、ああそうそう、と思い出したように声がかけられる。
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