キミは聞こえる
 いまはまだ中学生の頃にやった内容を復習しているにすぎないためなおさらかもしれないけれど、授業進度、教科書レベル、宿題の量などからも、今後この学校で自分はそれほど難を感じることなく三年間を終えられそうだなとは失礼ながらぼんやりと思っている。

 自分でもわかっているのだから、周囲は、特に教育者として教壇に立っている者は、入学してすぐにでも気づいたことだろう。

 彼女に、この学校の教育レベルはとてもじゃないが見合っているとは言えない、と。

 それが、理事長の言った、物足りない、という表現に当たるのだろう。
 ふと、思う。

(それって、もしかして……)

 心配していると言いながら、その実、心の中では泉に出て行けと思っているのかも知れない。

 泉を傷つけまいと、わざと遠回しに言葉を選んで言っていくれているのだとすれば、それはつまり、泉が厄介者ということか。

 助かっているなどという褒め言葉を鵜呑みにしたつもりではなかったけれど、それでも、この学校に居続けてもいいという確固たる了解をもらえたようで、安堵はしていた。

 自分の居場所は卒業までここであってよいのだと、そう言われた気がした。

 しかし、それらすべてが、暗にここを出て行けという意思、目的の上で吐き出されたものだとしたら、素直にぬか喜びなどしていられない。

 気づいてしまった今、自分はどうすることが適切なのだろう。

 そろわない個々の楽器の音が風に乗って聞こえてくる。


 しばし思案し、泉はとんでもなく恐ろしい考えに行き着いた。



 わざと、テストで悪い点数を取る、とか……?



 空欄を作って提出すれば順位は落ちるだろう。そうすれば泉もこの学校の生徒に混ざることが出来るかも知れない。

 怪しまれるかもしれない。

 けれど、悪い成績が続けば、教師たちもいずれ思うだろう。


 ああ、思い違いだったのだな、と。


 そのとき、晴れて泉はここ鈴森南の生徒として認めてもらえるはずだ。



(なんて……


 なにを馬鹿げたことを)
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