キミは聞こえる
 そのように愚かなことをしたら最後、私は桐野の目をまっすぐに見られなくなる。

 努力に努力を重ね、頂点をつかみ取ろうと必死になっている彼を侮辱する行為だ。

 そんなくだらない考えを思いついたこと自体が愚かで、腐れている。どうしようもない人間だと自分を恥じ入る。


 彼に……背を向けられることだけはしたくない。


 彼にだけは、否定されたくなかった。

 桐野が最低だと思うことはきっと、それ以上ないほどに、非人道的行動であるのだろうと察しが付く。

 そして、自分が思いついた良策はまさにそれに値するだろう。

 わかる。
 誰が聞いても、非道い、馬鹿にし過ぎだ、そう泉を愚弄するに違いない内容だ。


「り、理事長に、なにか、言われた……?」

 佳乃の声にはっと我に返る。

 あんまり時間がかかりすぎて、目の前にいることを忘れそうになっていた。急いでいると断ったはずだがずいぶんと待たせるものだ。

 待ってくれるようだとわかればあとは相手の都合などお構いなしなのか。泉だからいいものの、他の者だったら貧乏揺すり、もしくは舌打ちをされるぞ、確実に。

「なにかって?」
「しゃ、写真の、こと……」
「写真? ああ、私が写ったヤツ? ううん、なにも」
「じゃ、じゃあどうしてこんなに遅かったの?」
「これ、されてたから」

 頭のてっぺんを指さす。
 ああ、と佳乃は頷いた。

「お、怒られてた、わけじゃ、ない……よね?」
「怒らないよ。理事長、優しいから。髪いじりたかっただけみたいだよ」

 話したことはすべて私の問題だ。佳乃に打ち明けるまでもない。

「怒られたって、どうして?」
「しゃ、写真…代谷さんをモデルにしたこと、やっ、やっぱりまずかったかなって…だって、代谷さん、理事長の親戚の子、だし」
「親戚の子だからなおさら怒られないと思うよ。少なくとも、学校の敷地内ではね」
「そ、そういうもの?」
「そうだと思うけど。別に悪いことしたわけじゃないのにどうしてそこまで狼狽えてるの? 多分、あの写真を見て私だと気づいたのは理事長だけだと思うよ」
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