キミは聞こえる
「そうかな」
「そうだよ。それに、理事長も言ったでしょ。私がよければそれでいいって。だから栗原さんが気にすることは何一つない」

 わかった? という意味で首を傾げてみせると、佳乃はようやくすこしだけ笑みを見せた。

「よかった……」

 呑気な表情に、泉は呆れる。
 それは、そのまま声に反映された。

「……それを聞きたくて、わざわざ待ってたの?」
「わっ、わざわざって…! だって私、し、心配で…ッ!!」

 眉尻を僅かに上げて、佳乃は泉をまっすぐに見た。
 はじめて見る佳乃の強気な表情に、おもわず背中が反る。

 頬を引っ掻いて泉はぼそぼそと謝った。

「ご、ごめん…」

 今度は泉が視線をそらす番だった。

 理事長に言われた心配の言葉より、佳乃に言われた言葉のほうがはるかに胸に迫るのを泉は感じた。

 裏表ない心からの言葉だから、なのだろうか。

 はじめて感じるこそばゆさを、どう表現すればいいのだろう。

 そのとき、ふいに佳乃の顔が苦しげに引きつった。
 絞るような声が、小刻みに震える唇から漏れてくる。

「しっ、代谷さんは、私の、クラスでの初めてのと、友達だから、その……っ、ぜ、ぜったい、悲しませたくなくて、困らせたくなくて、だから、私……っ!」

 心が、震えた。同時に、言葉を失う。


 友達。


 佳乃に言われてすっきりした。



 そうか、これが、友情というものなのか。
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