キミは聞こえる

四章-3

「今日、スタメン発表らしいよ」
「サッカー?」
「うん。水道で、そんなこと話してるの、聞いた」
「ふぅん」

 昇降口で靴を履き替えながら佳乃が言った。彼女の視線はグラウンド、サッカー部に向けられていた。

「誰かから、ミサンガもらったかな…」

 独り言のように佳乃は呟いた。
 おそらく小野寺のことを言っているのだろう。彼も女子から好かれているのだろうか。

「代谷さんは桐野くんになにかあげたりした?」

 いきなり話が自分に向けられ、間の抜けた声が出る。

「……は? なんで?」
「なんでって、ふたり仲いいから」
「そういうのって、恋人同士がするものじゃないの」

 知らないけどさ。なんたって、女子校出身だからね。

 運動部に限らず部活動の数が栄美は少なかったし、部活動をしている生徒は教師にいい目で見られない傾向があった。

 そのために、女子同士でもそのようなやり取りはなかったと思う。

「そんなことも、ないと思うよ。現にほら」

 佳乃が指さしたほうを見やる。
 と、フェンス越しにまたは遠巻きに、グラウンドを見つめる女子の固まりが数個、見受けられた。

 それぞれ手にタオルや手紙のような物やらを持って騒いでいる。

 全員がサッカー部の彼女だとすれば明らかに数が合わない。もしくは約三分の二が愛人という計算になるため、大半が片思い中の娘たちだとは容易に想像が付く。

 自分を売り込むために必死というわけだ。

 テストの存在が彼女らの中でその程度の物だということが、こんなところからもわかる。

「青春だぁねぇ」

 とんとんとつま先を鳴らしてかかとを入れる。後ろからふっと小さく噴き出す音がした。

「やだ代谷さん、お年寄りみたいだよ」
「栗原さんは渡さないの?」
「えっ」

 付き合っていなくても渡そうとしている女子は大勢いる。
 ならば、佳乃とてその一人になってもなんら問題はなかろう。

 そう思って佳乃を見ると、とんでもないと言わんばかりにぶんぶんと首を振った。
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