キミは聞こえる
 *

 一番星らしきやたら明々とした星が光った。
 無意識に腕を伸ばして、星を掴むように掌を拳に握ってみる。

(俺が、スタメン、かぁ………)

 まさか、ほんとうに、この―――俺が。

 ついさきほど発表された。

 一年の中からは桐野と、小野寺が選ばれた。
 控えじゃない。レギュラーだ。

 二、三年の、実力のある選手を差し置いて、自分が、選ばれた。

 望んでいた。こうなることを。

 望んでいた、はずだった……。

 それなのに、いざ選ばれてみると、喜びとも恐怖ともつかない異常な昂ぶりに、指先が、喉が、膝が震えて止まらない。
 横で膝に肘をついて両手で口を覆っている小野寺もきっと同じ思いでいるのだろう。

「やばいな」
「……ああ」

 小野寺の声になんとか応じる。すると、声を出したおかげか、ようやく一息つけたような心地がした。

 両足を強くグラウンドに踏みつけて、勢いで立ち上がる。

 そのまま腕を空に突き上げて思い切り伸びをしたら、もやもやしていたものが花火のように弾け、吹っ切れた気がした。

 両頬をぱしんと叩く。

「おしっ、これで一応は兄貴に並べたってわけだな!」
「それで点入れれたら先輩越えるな」

 意地悪な男だ。
 人が考えないようにしていたところを思い切り突いて来やがった。

 悠士を超える。

 それはどうか……。

 悠士のポジションはミッドフィールダー。桐野はフォワードだ。攻守両方の役割を担う悠士は、高校初試合で得点こそ敵わなかったものの勝利に大きく貢献した。

 フォワードの役目はゴールを決めることにある。

 点をもぎ取らなければ意味がない。

 悠士は悠士の役割をきっちり果たして、一年ながらチームに認められた。

 悠士を超えるためには―――いや、一年の悠士と並ぶためには、最低でも一点―――なんとしてもシュートを決めなければならない。

 責任重大だ。

 その言葉にまた弱気な自分が顔をのぞかせる。

 めいいっぱい息を吸って胸を膨らませ、深く息を吐き出す。
 大丈夫、と自分に言い聞かせている時点で、すでに余裕がないとわかっているけれど、認めたら負けだ。
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