キミは聞こえる
 すると、いつまでたっても返事がないことを不審に思ったらしい響子が「どうしたの」と振り返り、さらに追い打ちをかけてきた。

「一緒に行こうよ、きっと楽しいと思う」

 その一言に、泉の中でとうとう何かがピークを迎えた。

 駄目だ、と思った。
 何にかは、自分でもよくわからない。

 沸騰寸前の頭をもたげ、力なく首を振る。

「……私は、遠慮しとく」

 そう答えると、二人は「どうしてよー」と声を揃えた。泉はなおも首を振る。

「眠いから。行ってらっしゃい」

 いままでの泉の行動からもっともらしい理由をつくってそう返すと、納得したように二人は顔を見合わせて頷いた。

「泉ずっと眠そうだったもんね」
「風呂までには戻ってくるから。そのときは一緒にいこーね」

 手を振る二人を引きつった笑顔で見送った。

 ドアが閉まり、部屋が一気に静かになった途端、泉は脱力した。

(何してんだろ、私)

 自分だけが動揺して、止めたほうがいいはずなんて焦って。
 なんだかすごく虚しく思えた。バカらしいと感じたのだ。

 私に止められたからといって、彼女たちは行くことをやめただろうか。
 あのノリでそれはまずないだろう。

 言っても言わなくても結果が同じなら、無駄なお節介をやかずに済んだ今がきっと正解。

 なに言ってんのこいつ、と陰で嗤われるのがオチだった。

 泉はぐったりと背もたれに体重を預けた。変に気疲れした。

 こんなキャラじゃないはずなのに。前の学校とのギャップが激しすぎるためだな、と泉はこめかみを軽く押しながら、深く息を吐いた。

 ―――そのとき。

(……似てる。この感じ)

 泉はふいに違和感を覚えて目を細めた。
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