キミは聞こえる
「そういや科学部って、応援どこだっけ?」
「どこっつったっけなぁ……野球、かな? うん、多分、野球。五人しかいねぇ部活(うち)が吹奏楽部の隣で応援したって届くはずもねーけど」

 たしかに。
 …いや、五人どころか、当日こいつが人数に加えられるほどの声を張るとは思えないから正確には四人だな。

「サッカーは、写真部だな」
「なんで知ってんだ?」
「千紗が言ってた」
「……なんで千紗が?」
「千紗は代谷が大好きみたいだ。ラクロスがいいってずっと言ってたんだけど、結局サッカーに決まったみたいって、超どうでもいい報告がとんでもない時間に電話で」
「とんでもない時間?」
「午前四時。ありえないよな? あんまりテンション高いんで酔ってんのかって訊いたら全然素面って返ってきた。寝れないから電話してみたって、とんでもない理由だと思わねぇ? さっさと寝ろっつーの」
「相変わらず仲いいな」
「まぁなー。でも、幼馴染みもなかなか大変なのですよ、桐野君」

 知希はそう言うが、今の桐野にとっては羨ましくて仕方ない発言だった。

 さすがに毎日だったら辛いけど、そんな理由で代谷も電話の一本でもくれれば俺の恋心はこんなに荒れ模様じゃないはずなのに、と思う。

 と、そのとき、ぐいっと前のめりになって知希が桐野を見上げた。おもわず背中が反る。「な、なんだよ」

「いま、ちょこっと、いいなぁとか思ったろ? うん?」
「はっ、な、なんでだよ!」
「顔に書いてあったから。桐野って、千紗じゃあねぇよな?」
「なにわけのわかんねぇこと訊いてんだよ! 千紗はてめぇだろ」
「ただの幼馴染みだ」

 あれ、と思った。

 いま、一瞬たしかに知希の顔つきが変わった。にわかに固い口調になったのも気のせいじゃない。

 またすぐにいつものぼんやり顔に戻った知希だけれど、なんだかこれ以上つっこんではいけないような気がして桐野は話をそらした。
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