キミは聞こえる
「そういえば千紗、最近響子とよく代谷にくっつきに行ってるよな」
「よく見てるな。ふぁあ、まぁ、そうだな。電話してても代谷のことばっかだし」

 そこでまたひとつ知希は欠伸をする。
 それを見ているうち、桐野まで唇の辺りがむずがゆくなってきた。

「千紗と響子って、代谷みたいな口数少ないヤツとも連(つる)むやつらだったんだな」

 どちらかと言えば女子を仕切る側の賑やかなタイプである二人は、あまり大人しい者たちとの交流を持っていない。

 拒んでいるわけではないのだろうが、積極的に混ざり合おうとはしていないように桐野には思えていた。

 だから、栗原はもちろんのこと、終始ひとの話を聞いているかすら疑わしいマイペース代谷と親しくしているところを見かけるたび、正直意外でならなかった。

「相当気に入ってるようだしなぁ。勉強合宿のとき、すぱっと言われて目が覚めた、みたいなこと言ってたぜ」
「すぱっと?」
「詳しくは俺も知らねぇけど、私きょうから心入れ替える、って土曜日の朝五時に電話かかってきて宣言された」
「……それってまさか合宿から帰ってきた次の日の土曜日?」

 うなだれながら、そうだよ、と知希は言った。
 それにはさすがの桐野も同情せずにはいられなかった。

「千紗ってタフだなぁ…」
「それだけ言って一方的に切ったからすぐ寝たんだろうな。だったら昼間になって本格的に目が覚めてからかけろって思うぜ」

 ごもっとも。

 しかしいったい代谷はなにを言ったのだろうか。
 
 千紗の生き方の方針を揺るがすほどの言葉とは。まったく想像が付かない。

 団子頭の理由といい、小野寺曰く栗原の様子がおかしかったときの表情の理由といい、合宿のときの言葉といい、また、ピンクと黒はどちらが好きかと訊いてきた意味のわからない質問も含めて、

 代谷はわからないことだらけだ。
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