キミは聞こえる
 もう、いいかげん電話してみてもいいかな。

 ピンクと黒の質問の意図を尋ねるくらいは、立派な理由として成り立つんじゃないだろうか。

 それをきっかけに訊きたいことを突っ込んでいけばいい。時間を作っていけばいい。

 とにかく桐野には、電話をかける名聞がない。だから代谷に連絡を取れないのだ。

 どんな些細なことだっていい、これだと思ったものにはすがらなければあいつと二人きりで話すチャンスはそう訪れない。

 そのとき、階段のほうから足音が聞こえてきた。

「えらく上がってこないと思ったらまだそんなとこにいたのかよ桐野。グラウンドの女子たちもとうに帰ったっつーのに」
「そういや桐野、さっき告白されてたでしょ? ぼく、見てたよ、うふふ、OKしたの?」
「まさかっ、嘘だろ!?」
「まっ、まだなにも言ってねぇよ!」
「OKしたのか!?」

 小野寺が目を見開く。
 ぶんぶんと首を横に振って、

「してねぇよッ」

 だよな、とほっとする小野寺。
 一方で、ならば桐野君の愛しの姫君は? と目を輝かせて尋ねる興味津々の知希を押し離す。

「ああもううっせぇな! 誰でもいいだろ」
「誰でもいい! 言ったな。ってぇことは、だ。仲吉じゃない別の女子で本命のやつがいるってことだ! そうだろ、そうだろ!?」

 指をさして知希は得意げに声を上げた。
 しまった、と思ったけれど取り消せる状況ではない。

「うっ……」

 詰まる桐野を見、知希は笑って両腕を頭の後ろに回した。

「桐野ってほんっとわかりやすいよなぁ。悠士先輩と違ってなにもかも丸出しなんだもん」
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