キミは聞こえる
「まっ、丸出し!?」
「言葉にも、顔にも、態度にも出すぎ。これから教室でずーっと桐野のこと観察してよ。モテ男桐野が狙うお姫さんが誰か、すぐにわかりそうだ」
「おっ、おい! 別にクラスメイトとは限らない―――」

 知希は桐野の言葉を遮るようにまたもや指を突き出した。

「その反応こそ! 言い返すところがもう、桐野自ら告白しちゃってるし」

 だよな、と知希に目を向けられて小野寺はふっとどこか意味ありげに笑った。
 瞬間、頬が熱くなる桐野――

 なんだよ、今の! おまえは俺の味方じゃなかったのか!

 小野寺の反応に満足したように、くいっと口角を上げた知希は、引き留めようとする桐野の手をするりとかわして、ばいにゃ~と手を振りながら去っていった。

 何事もなかったように傍らを通り抜けようとする小野寺の腕を桐野は今度こそがっちりと掴んだ。

 恨めしげに見つめる友を、小野寺はあらぬ方に視線を向けて逃げようとしている。

「こら小野寺! この裏切り者ッ」
「なんだよ」
「あそこは無表情を貫けよな。ばれちまったらどうすんだよ。あいつはおまえと違って同じクラスなんだぞ」
「俺が我慢をしたところで時間の問題だ。知希も言ってただろ? おまえはわかりやすいって」

 そんなにわかりやすいだろうか。

 本人としてはわりと言動に関しては慎重なつもりなのだけれど。

「あたふたしてるときって誰でも素が出ちまうもんだけどさ、桐野は特に顕著なんだよ」
「うっ、うっせーよ」

 そう返してから、こういうところもわかりやすいと言われる所以なのだろうか、とふと気づき、桐野は口を噤んで頬を膨らませた。

 小野寺がぽんと肩に手を乗せる。

「まぁそういじけんなって。こんな晴れの日には明るく行こうぜ桐野」

 さっきまでベンチに座り込んでどうしてよいかわからなくなっていたヤツの言う台詞とは思えない。着替えているうちに腹が据わったのだろうか。

 だがまぁ、言われてみればその通りなのは、その通りなのだけれど。

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