キミは聞こえる
ボールばかり追いかけているものと思いきや案外熱心でもないようだ。
弱音を吐いていたクセによそ見をする暇があるとはなんとも余裕なこと。
泉は、ほんのすこし唇を尖らせた。
(……)
泉に芽生えた本人も気づかないほどの僅かな苛立ちは、不真面目な桐野の態度に向けられたものではなかった。
クッションを引き寄せ膝に置いて、アゴをのせる。
(……栗原さんの心配も、するんだ)
わざわざ呼び止めてまで訊いてくるとは、さすがというか、やっぱりというか、桐野らしいと言えば桐野らしい。
桐野君は、みんなのことが、大事なんだな。
そんな言葉が頭をかすめて、すこしだけ、変な気分になった。
「よく見えたね」
「まぁ、な。なに話してたんだ?」
桐野は佳乃のことを真剣に心配しているのだろう。泉のときだってそうだったではないか。
誰彼関係なく平等に、必死に、親身になってくれる彼になら、打ち明けてもいいかな、と思った。
「栗原さんが、自分のことをあんまり酷く言うから、すこし、口論になった」
「口論?」
「そんな大袈裟なものじゃないんだけど、ちょっと納得できないこと言うからつい強く言っちゃって。ねぇ桐野君。この間、私が言いかけてやめたこと、覚えてる?」
「掃除のときのか?」
「そう。あれ、栗原さんが中学のとき本当にしおりを隠すなんてことしたのかって訊こうとしたの」
ちょっとだけ間を置いて、桐野は「うん」と言った。
「別に知らなくてもいいんだけど、どうしても信じられなくて――」
「信じなくていいよ」
桐野は遮るようにそう言った。