キミは聞こえる
「信じなくていい。栗原はなにも悪いことなんかしてねぇ。勉強合宿のときと同じだ。周りにはめられたんだよ」
「……そう」

 呟いた声の尾が、自然、震えた。

 はめられる。

 なんて惨いことだろう。
 自分とは関係が無いことなのに、涙が滲む。

 やはり、そうだったのか。
 彼女にはなにも非などなかったのだ。
 それなのに、いじめの対象として選ばれた。

 そしてそれは今もしぶとく続き、絶えず彼女を苦しめている。

「栗原が、そんときのことなにか言ったのか?」
「ちがう。私が勝手に気になっただけ」
「千紗たちに聞いたのか?」
「合宿の夜、千紗の財布が消えて、栗原さんが第一に疑われたとき二人がそう言ってた」
「そっか……」

 つくづく彼女が不憫でならない。

 抱きしめたクッションをいっそう強く抱き込んでそのままベッドに横になる。

 栗原を見ていればわかる。

 彼女は、小野寺に、恋をしている。
 本当に、好きなのだ。

 好きだからこそ、心を痛め、言いたくて言えない言葉を胸に留め、見守るだけでいいのだとそう言った、遠くから見つめる彼女の眼差しがどれほど清らかで、純粋で、美しいものかを知る者はいるだろうか。

 彼女に想われる小野寺は幸せ者だと思う。

「栗原さん、放課後私に言ったの。笑い者にしたくないって」
「どういうことだ?」
「自分に優しくすると、優しくしてくれた人までおかしな目で見られるかもしれない……って、ばかだよね」

 つい本音を漏らしてしまってから、慌てて口を噤む。

 虚しいのか、腹立たしいのか、わからなくなってくる。

 おそらく紙一重ほどしかないのだろう鬱(ふさ)ぐ思いと、煮えたぎる思いとが入り交じり、いつもなら抑えられるはずの感覚を麻痺している。

 重苦しい影の落ちた心の声を、しかし桐野は非難しようとはしなかった。

「……つまんねぇこと気にしてんな、ほんと。それで口論ならわかるよ。そんなこと言われたら俺もなに言ってんだよって軽く切れる」

 非難するどころか桐野は泉の言葉に賛同してくれた。

 だからすこしほっとして、調子に乗るではないけれど、つい思いのまま言葉を続けてしまった。
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